花粉症の増加を心配する

 僕は高校時代の生物の授業の中で、植物の花粉がどのように花の「やく」という部分で生じるのか、またその花粉は雌ずいの柱頭という部位に付着すると、花粉管を伸ばし、卵細胞と合体して受精卵となり、最終的に胚へと育っていくということを学んだ記憶があります。当時の僕は、植物の花粉は単に植物にとっては雄の生殖細胞にすぎないと考えていたので、その花粉が今日のアレルギー反応を引き起こすことなど、夢にも思ってはいませんでした。

 その後、大学時代には、「パリノロジー」という英語で表現された書物を発見して、植物の花粉が地質学的に地層の年代決定や昔の植物分布を理解する上で重要な手がかりを与えることを知りました。花粉の大きさや形態、構造は植物によって異なるので、花粉の化石があれば、その地域にどんな植物が昔に繁茂していたのかがわかるのです。パリノロジー、つまり「花粉学」という学問もけっこう面白そうだな、とよく考えたものです。

 

 そんな僕が、やがて免疫学を専攻し、この分野の研究に興味を抱いて、特に無脊椎動物の生体防御の研究に没頭するようになったのは、現在の大学に教員として着任してからのことでした。そして、今から10数年前に、スギ花粉で生じるアレルギー反応で苦しんでいる患者さんが非常に多いことを知り、何とか身近な食材やお茶類などで、このアレルギー反応を免疫学的に治せないのかな、と強く意識するようになったのです。

 

 さて、スギの花粉によってクシャミや鼻づまり、鼻水などのアレルギー症状が生じるのが、いわゆる「スギ花粉症」であり、1964年に栃木県の日光市で初めて観察されています。その発見以後、スギ花粉以外でも、例えば、ブタクサやヒノキ、サワラ、カモガヤ、スズメノカタビラ、ハルガヤ、ヨモギ、カナムグラなどの植物の花粉によっても、スギ花粉症と同様のアレルギー症状が生じることが判明しています。こうした植物の特徴として、風を利用して花粉をまき散らすという「風媒花」の性質をもっていることや、花粉のサイズがおよそ20ミクロン以上であり、鼻や目の粘膜にくっつきやすい性質をもっていること、などがあります。この意味では、将来、同じような特徴をもつ植物がある地域に繁茂すると、その植物の花粉による花粉症が発生する可能性も容易に想像できます。

 

 加えて、最近、植物の栽培や採取で生計を立てている人の中に、その植物の花粉が原因でクシャミや鼻水、鼻づまりなどの不快な症状が出る方が増えてきました。実際、ナシやリンゴなどの果樹園では、人工授粉の季節に花粉症が増加しているのです。また、農家のビニールハウスでイチゴ栽培している方が、イチゴ花粉によるアレルギー性鼻炎で苦しむといった事態も増えています。こうした花粉症はいわゆる職業病ともいえるものです。いったいどうして、このような不快なアレルギー症を訴える方が増えてしまったのでしょうか。そして、どうしたら、このアレルギーという過敏症を正常レベルまで抑えられるのでしょうか。僕は真剣に、こうした疑問に対する答えを得ようと、さまざまな実験を行ってきました。その結果、レンコンやニラ、ニンニク、シソ、あるいは甜茶や羅漢茶などに、アレルギー症状を改善させる作用のあることを見出し、特にレンコンには最も強い抗アレルギー作用のあることを突き止めることができました。

 

 ところで、僕は先日、大学周辺にあるスギの木を観察する機会に恵まれました。そこで驚いたことは、スギ花粉をたくさん含む花穂が例年以上に早く成熟していたことです。地球温暖化で花粉の成熟速度が加速しているのでしょうか。毎年、2月の春一番が吹き荒れる頃に、スギ花粉は飛び出します。しかし、今年の花粉の成熟を見るにつけ、もしかしたら年内か年明け早々にもスギ花粉は飛散するかもしれないと感じたのです。

10月14日に撮ったスギ花穂の写真(少し黄色になっている).jpg 11月15日に撮ったスギ花穂の写真(かなり成熟し黄色が濃くなっている).jpg  

 花粉症は不快な症状で人の労働意欲を低下させたり、生産性を抑制します。花粉症の方は今からでも、身近な抗アレルギー性の野菜やお茶類を大いに摂取して、今後増えるであろう花粉症を乗り越えてほしいと願う1日でした。

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