久しぶりに童心に戻って感動

 母が大腿骨を骨折してから、はや1年と2ケ月が過ぎました。今は、元気で老人施設の環境にも慣れ施設の生活リズムの中でリハビリに専念しています。 長男として、これほど嬉しいことはありません。この1年間以上、仕事に支障のない限りにおいて、僕は毎週のように松本に帰省して、母を見舞ったり励ましたり、また実家やご先祖様を守ってきました。最初は苦労の連続でしたが、大自然の中に帰れる気持ちが、苦労を忘れさせ、今は自分の気持ちが安らぎ、また生活の満足感も得られ、帰省するのが楽しみになっています。特に、僕が中学生だった頃に、僕に博物学を教えてくれた場所を訪れることは、本当に嬉しいことです。

 松本市の中で、当時、特にチョウの生息数が全国トップに入る藤井谷は、今でも昆虫が豊富で、いろいろな珍しい種類を観察することができます。実は、今日も当時見られたチョウが羽化して飛んでいるかを確認したいために、藤井谷を訪れました。当時は自転車で訪れた藤井谷ですが、今では車で10分も乗れば行き着くことができます。こんなに近くに、当時の研究から125種類ものチョウが生息していたことは、僕にとって本当にラッキーなことだったのです。

 

 昆虫の生息地は、「棲み分け現象」がみられ、発生時間や生息場所など、無駄な争いが少ない方法で生きています。この関係で、例えば、身近なアゲハチョウは幼虫の食草があるカラタチやミカンなど柑橘類が生えている地域に分布しています。また、近縁種のキアゲハはニンジンやセリなどを食草にしているため、この2種類が自然界で出くわすことはあまりありません。この結果、交雑が起こりにくいようになっていますし、万が一、交雑が起こっても、雑種はなかなか生じないように、「種」として遺伝的にはかなり完結しているのです。こうした現象は、どの種類にも当てはまる傾向が強いので、毎年、発生する場所さえわかっていれば、その時期に同じポイントを訪れると、観察できる可能性が高いのです。

 

 さて、今日、観察できたチョウは、イチモンジチョウ、テングチョウ、ルリシジミ、メスグロヒョウモン、ヒメシジミ、スジグロシロチョウ、クロアゲハ、ホシミスジ、コミスジ、ミドリヒョウモン、アサギマダラ、アカタテハ、ヒメウラナミジャノメ、ジャノメチョウ、そしてスミナガシの15種類でした。この中で、ヒメシジミと出会ったことやスミナガシの産卵行動に出会ったことは、久しぶりに童心に戻って感動し、心が熱くなりました。ヒメシジミの分布域と行動範囲はとても狭く、食草のキク科ヤマボクチが生えている場所に限られています。低くゆるやかに草の葉末から花へと飛んでいる姿は、美しいものです。また、メスグロヒョウモンはその名前のごとく、雄の羽はあざやかな橙色であるのに対して、雌はまるで別種のように黒色の羽をもっているのです。今日観察できたのは羽化したばかりの非常に美しい雄の個体でした。帰ろうとしたとき、春型のスミナガシの雌が、食草のミヤマハハソの葉裏に一つずつ丁寧に産卵している瞬間にも出くわしました。この卵が無事に孵化して無事に成長し、夏型となって再び藤井谷で精一杯生きてくれることを祈って帰宅の途につきました。

 

 地球の温暖化が加速度的に進み、生態系が急速に変化しつつあります。こんな状況の中でも必死に生きて種を維持している昆虫をみるにつけ、自然への畏敬の念をさらに深くした1日でした。いつまでもこの自然が維持されますように祈る1日でした。

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