早いもので、2009年もまもなく終わろうとしています。静かに目を閉じると、今年開催されたさまざまな講演が思い出されます。先日も、新潟県上越市で開催された「みんなで考える音楽療法のあり方」と題したシンポジウムに招待され、講演をしてきました。私のタイトルは、「健康維持と音楽療法」で、これまで研究してきたモーツアルトの音楽を用いた受動的音楽療法が、今日の交感神経優位で引き起こされる多くの生活習慣病の予防あるいは未病改善にいかに役立つかについてお話することができ、たいへん有意義なものでした。私のほかには、金沢医科大学の北本福美先生と神奈川リハビリテーション病院の甲谷至先生の素晴らしい講演がありました。
  さて、 北本先生の講演は、「老いのこころと向き合う音楽療法」と題したものでした。音楽と認知症の改善に焦点が当てられ、音階とリズムに関わる脳構造の問題や高齢者と音楽の関わりについてのお話しはたいへん興味をもちました。特に、音楽療法が確かにエビデンスに裏打ちされて、高齢者の認知プロセス刺激や注意の持続性、あるいは自己概念の再構築や相互協力の促進、会話への刺激などの観点で大きな効果を発揮することを改めて理解することができました。
   加えて、甲谷先生は「歌うことが口腔ケアになる」と題しての講演をされました。 先生は、歯科医師として、また音楽療法士としての立場で、口腔ケア、つまり口腔機能の向上のために行う音楽療法が、誤嚥下性の肺炎を予防する上で有効な手段になることを示しておられました。確かに食物を噛んだり飲み込む摂食行動に関わる口腔あるいは咽頭の筋肉は、お喋りをしたり歌を唄ったりする際にも機能するものです。したがって、摂食行動が低下して嚥下障害が起きると、肺の方に摂食した食べ物が入る結果、特に高齢者では肺炎を引き起こすことにもなるため、歌を唄うことによって嚥下に関わる筋肉を鍛えれば、嚥下障害を防止することにもなるのです。さらに、顔にマヒがある場合にも、舌を前に出すとか上向きあるいは下向きに出すという行為がその改善に役立つことも示されました。この意味で、こうした行為を音楽に合わせて行うことはたいへん意味のあることになります。口は「健康の入口」あるいは「心の玄関口」であることを改めて感じました。
   さて、このシンポジウムが、今年のNHK大河ドラマ「天地人」の主人公である直江兼続ゆかりの地で開催されたことは、私にとってたいへん嬉しいことでした。直江兼続は、 米沢藩初代藩主上杉景勝を支えた文武兼備の智将であり、関が原敗戦後は、上杉家の米沢移封に伴い執政として米沢城下を整備し、現在の城下町米沢の基盤を築いたことで知られています。講演会の合間に、上杉謙信公が7歳から14歳まで禅の修業と文武の道を学んだ林泉寺を訪れることもでき、今年最後の講演会はたいへん実り多いものでした。
   私たちを温かく迎えてくださった高田福祉会の皆様に心から感謝しつつ、来る新しい年も音楽療法が人々の健康にいっそう貢献してほしいと祈りながら、また世界の人々の心が平和であるように願いながら、今回の講演の旅を無事に終えました。




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